先日、散歩の折に見かけた看板。
それにしても、実用があるなら非実用があるのでしょうか。 非実用タクシーというと。 …。 「ヘイ、タクシー!」 キキィッ。 「へえ、毎度。何王子まで参りやしょうか?」 「何王子って…なんなんだ、それは」 「まあ、いろいろありやすよ。王子とか八王子とか」 「なんでそんな選択肢狭いんだ。シャトルバスか」 「仕方ありやせんね…特別に天王寺もアリにしましょう」 「そんなのアリにされてもうれしくない。なんかすごい遠いし、だいたいそれ何王子でもないじゃないか」 「まぁ勘弁してくださいよ…あっしの家が八王子なもんで。いや旦那聞いて下さい、何を隠そう今日ウチの娘の誕生日なんです」 「そんなこと今聞きたくない。君んちじゃなくって俺のうちに行きたいんだけど」 「へえ。何王子ですか」 「王子から離れろ!」 「わかりやした。じゃあ漠然と湾岸方面でいいですかね」 「あ! 待て、今のはそういう意味じゃない!」 「サーキットで最強のマシンは公道でも最強だぜ!」 「こんなタクシーがサーキットなんか走るか! ただのマーク○ーの癖に」 「へっ…旦那はグラン○ーリスモをやったことがねえからそんなコトが言えるんでさぁ」 「それでも最強になんかなるか…って、そうじゃない、俺は王子の話はやめろというつもりで言ったんだ!」 「ああ…っと、こりゃ失礼」 「わかったんなら、さっさと」 「じゃ、聞いてくださいよ。さっき言ったウチの娘ね、コイツが今日で5つになるんで。最近じゃだんだん生意気なクチをきくようになって来たんですが、そんなところがまた可愛くってねぇ!」 「いや、そんな話は今いいから」 「こないだなんざ、外に晩飯食いに連れてってやるって言ってたのに、長距離のお客さん乗せちゃって、結局帰りが夜中になってね」 「そうじゃなくてすぐ止」 「『とうちゃんお前のために稼いでんだ仕方ねえだろ』っつったら旦那、なんて言いやがったと思います?」 「わかった、話はあとで聞いてやるからとりあえ」 「『もうやだ! とうちゃんにハンバーグはんぶんあげようとおもってたけど、ぜったいあげない!』ってね!」 「何度も言うようだが今すぐ」 「アイツ最初っから飯食いにいったら自分の分をあっしに分けてくれるつもりだったんでさ! ええ? やさしい子じゃあねえですか!」 「人の話を」 「そりゃ金払うのはあっしですがね、その心根がたまりませんやね。まあ、あっしとウチのヨメの子ですからね、決して賢いってわけじゃありませんがこんなイイ子に育ってくれたら文句なんかありませんで!」 「俺はお前に文句が山ほど」 「そんであんましガッカリしてかわいそうなんで、そのあとヨメと3人で屋台にラーメン食いに行ったんですがね、そしたら最初はブスブスしてたのが、最後にゃ『とうちゃん、おいしいねえ』つって笑うんですよ! もう、天使ってのはあんな感じかってなもんでねぇ! クーーッ」 「悪魔ってのはこんな感じなのか!」 「そんなこんなで今日は早いとこ帰ってやりたかったんですがお客さん断るわけにもいかねえですから、因果なもんでさあ」 「え…いや…あの…」 「でも旦那みたいなイイお客さんに文句は言えねえですよ、あ、コノヤロッ、チンタラ走ってんじゃねえ蠅が止まらあこのスットコドッコイ! ビビーーッ! ビーー!」 「うっわぁ…ガラ悪ぅ」 「オットもうすぐ箱崎ですぜ旦那。どっちに行きますかい?」 「ま…待て、湾岸には乗らん。というか、はじめっからこっちに来るつもりはなかった」 「ええ! 旦那そういうコトは早めに言ってくれなくちゃ」 「ああ…。箱崎…いつのまにかすごい来ちゃったじゃないか!」 「面目ねえです…まあ、安心して下せえ、カードOKでさ」 「うわ、払わせる気だこいつ」 「で、どんな感じで流しましょうか?」 「いや、流すとかじゃなくて…目的地に行ってほしいんだが」 「アー、旦那、ウチはそういうのはやってないんですよ」 「えっ、なにそれ。どういうこと」 「ウチはねー、非実用タクシーなんでさ。非実用性がウリ」 「そもそも、そんなものが存在する意味がわからない」 「いやいや、けっこうご利用になるお客さんはいらっしゃるんでさ」 「じゃ、何ができるの」 「おまかせ、とか…」 「寿司屋かよ、嫌だよそんなの」 「何王子かだったらどこでも」 「却下」 「なかなかむつかしい旦那だねぇ」 「おまかせって言ったらどうなるの」 「オヤ、いいんですかい?」 「良くはないけど、どうせ他はなにもやってくれないんだろ?」 「ははぁ…わかりやした。では」 「やってくれ、もう」 「ヘィらっしゃい! おまかせですね! 旦那なにかダメなもんとかありますか」 「強いて言えば全部ダメだけど、なんでもいい」 「へい! じゃ、ハンドル握らしてもらいます!」 「ああ…そんなオチか」
by tatsuki-s
| 2004-05-18 21:51
| Anecdote/Pun(小噺・ネタ)
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