飲酒日記

スキー&スノーボード2004-2005

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友達とタオルケット

 こんにちは。突然だけど、ぼくはチャーリーっていうんだ。

 今日は、ぼくの友達の身のうえに起こった不思議な話をしようと思うんだ。

 その友達っていうのはライナスって奴なんだけど、彼は子供の頃からずっと同じタオルケットを肌身離さず持ち歩いている。

 いつからそうなのかは知らないけど、少なくともぼくが彼に出会ってこのかた、ライナスがあのタオルケットを持たないでいる姿は見たことがないんだ。

 ライナスの姉さんのルーシーに聞いてみたけど、やっぱりいつ見ても必ず握りしめて歩いてるっていうし。

「あいつってば、おフロに入るときもあのきったないタオルケット持って入るんだから。
 知ってる? タオルケットなんか持ってシャワーを浴びられたら、あとでバスタブが
 垢だらけになってそりゃもう

「もうわかったよルーシー」

 そんなわけで、ぼくはマーシーとパティにも相談してみた。

「絶対、あのタオルケットには驚くべき秘密が隠されているわ」とマーシー。
「あれがあやしいと思っているのはあんただけじゃないわよ」とパティ。

 こうなると、このふたりは話が早い。ぼくはちょっと気が引けたんだけど、ライナスが寝てる間にあのタオルケットをかくしてみようってことになった。

§           §           §

 いよいよ計画の日、ぼくらはつれだってプールに泳ぎにいったんだ。その日はカンカン照りで最高のプール日和だったし、ぼくらははしゃぎまくってヘトヘトになるまで遊んだ。

 帰りぎわ、ぼくはパティの提案どおりみんなにこういった。

「うちにおいでよ。冷たいソーダでもごちそうするからさ」

 もちろん、みんな異議なんてあるわけがない。疲れたからだにしみこむシュワっとしたソーダ水の味とか、青くなった舌を見せっこする楽しみに抵抗できるやつなんて、この世にいるわけがない。

 カラカラにかわいたのどに一気に流しこんだ甘いソーダ水は、少しひりつく肌までひんやりと冷ましてくれる気がした。ぼくらは夏の幸せを骨のずいまであじわいながら、けだるい疲れと友達と過ごす時間を楽しんだ。

 ひとしきりバカな話で盛り上がったころに、ライナスがとろんとしてつぶやく。

「なんかぼく眠くなってきたよ」

 ねんのためにいっておくけど、ぼくらは絶対に神聖なソーダ水に変なものなんか入れたりしない。さんざん遊んでクタクタになったあとの昼寝ってのは最高のぜいたくなんだ。

「じゃ、ちょっとみんなでお昼寝しましょうよ。いいわね、チャーリー?」
「う、うん。ぼくはかまわないよ」
「チャーリー、恩に着るよ…」

 そういうが早いか、ライナスはタオルケットにくるまってあっという間にすうすうと寝息をたてはじめた。

「さて…いよいよね」

 マーシーのメガネがあやしく光る。

バウバウ!

 ちょうどそのとき、犬小屋のほうから声が聞こえた。

「ごめん、ちょっとビーグルにエサをやらなくちゃ」
「何よ、これからってときに」
「アタシもうねむい…」

 妹のサリーは眠くてもう限界ちかいみたいだった。

「ごめん、ちょっとだけ待っててよ」

 ぼくはあわててドッグフードの袋をかかえて庭に出た。

 ビーグルって犬種はどういうわけかいつも腹ペコらしくて、いつエサをやってもかならずペロリと平らげちゃう。散歩の時間も長いし、とっても手がかかるんだけどそこがかわいくて仕方ないんだよね。

 犬は、壊れたタイプライターの角をがじがじとかじって食事が遅くなったことを主張していた。

「ああ…ごめんよ。ほら、ごはんだぞ」

 ざらざらとフードをながしこむと、犬は待ちかねたようにがっつく。ぼくはすぐそばにしゃがみこんで、その様子をじっとながめるのが大好きだ。

 犬はすこし迷惑そうだったけど、ぼくはとてもやさしい気持ちになって、しばらく横からのぞき込んでいた。

§           §           §

「キャーーーーッ!」

 突然、家の中からいっせいに悲鳴があがった。

 ぼくは何ごとかとおもって、大いそぎで家の中にかけこんだ。

「どうしたの?」
「ライナスが、ライナスが!!

 みると、さっきまで気持ち良さそうに寝息をたてていたはずのライナスは、真っ青な顔をしてピクリとも動かず横たわっている。とっさに口もとに手をかざしてみると、ぜんぜん息をしていないみたいだった。

 妹のサリーなんかもうパニックで、ぼくのことをポカポカと叩くし、もうめちゃくちゃになっちゃった。

(ど、どうしよう)

 ぼくもとってもあせっていたけど、それよりもみんながパニックになっているのをみて、ちょっとだけ冷静になれたんだ。

「ま、待ってよみんな。ひとまずそのタオルケットをもとに戻してみるってのはどうかな」
「それよ! なんですぐにいわないのよ!」
「いいからこっちにパスして!」

 ぼくはよれよれのタオルケットを受け取ると、ライナスのからだにそっとかぶせた。

「ん…」
「「ライナス!!」」

 ぼくらはいっせいに声を上げた。

「うーん…。ひどいなあ、ぼくをからだから離すなんて

 ライナスはねぼけ顔でそうつぶやくと、ふたたびタオルケットにくるまって眠ってしまった。

「ね、今…」
タオルを返して、って言ったんでしょ」
「そ、そうだよね」

 そのあとも、みんな何もいわなかったけど、妹のサリーはときどきうたがわしそうにあのタオルケットをじっとにらんでいたのをぼくは知ってるんだ。

§           §           §

 話はこれでおわりさ。ライナスはあれからおかしな様子もなくていつもどおりだし、ぼくらはそのあと夏休みの課題のおいこみにてんてこまいで、もうそれどころじゃなかったし。

 でも、それからは誰もライナスのタオルケットを話題にすることはなかった。

 ぼくだって、自分の大切な友達が実はタオルケットのほうだなんて考えたくもないしね。
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by tatsuki-s | 2004-08-29 19:31 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

一年

 雨が降っていた。

 こんな日に、彼の父親は息子を駅まで送るために、やはりこうして車を走らせたのだろう。

 昨日、亡くなった友人宅の車に揺られて駅に向かう道すがら、僕は掛けるべき言葉もみつからずひたすら雨を眺めていた。

§           §           §

 望みを託せる何ものかがなければ、おそらく人間は生きてゆけない。

 それは自分自身のことかもしれないし、他の誰かのことかもしれない。いずれにしても、生きている限りは何かに望みを託さずにはいられない。その望みは絶えず形を変えながら、ときには消えたり新たなものが現れたりしながら、それでも間違いなくそこにあって、そうした連続が人生を過ごす動機になる。

 しかし、ひとつのことが長く続けば続くだけ、それは未来永劫続くもののように思われ、失われることなど思いもよらなくなってゆく。

 にもかかわらず、その基盤はおそろしくあやふやで頼りないものだ。

 それでも、はじめからなければ良いとは思わない。それは、あるときまで間違いなくそこにあって、人生のある期間を支えるもののひとつなのだ。

 だが、それは誰にとっても等しくそのように思えるものとは限らない。ましてや、気が遠くなるほど長い時間、それが人生そのものであったような対象を失った経験は、僕にはない。

 だから、僕は何も言えずに雨でも見ているしかなかった。

§           §           §

 一年前、浜辺で友人の亡骸を目のあたりにしたとき、僕にはそれが現実感の希薄な出来の悪い書き物のように思われ、泣くことも悲しむこともできなかった。何の理由があってこんなことが起こるのかまるで理解できなかった。

 そこに理由などない、ということが少しだけわかってきたのは、ようやく最近のことだ。

 失われたものは二度と戻ってこない。期待をかけて待っていても、それが誰かの手であがなわれることはない。

 ただ、別のものが生まれたり、ふたたび消えたり、というようなことが、望むと望まざるとにかかわらず、これから先も繰り返されるのだろう。そうやって、生きるための動機を絶えず探し続けるのだ。

§           §           §

 夏の終わりが近づいてきて、暑さと疲れで意識が乱れると空が高くなったように見える。

 ときどき、一年前のあの日に旅客機の爆音が鳴り響き、冗談みたいに真っ青だった南国の空を思い出す。
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by tatsuki-s | 2004-08-23 03:06 | Talking(よもやまばなし)

Blind is what.

 その日は酷く暑かったので、僕は長年の友人を呼び出してビールを呑みに行くことにした。

 いいかげん酔いが回り、気がつけば三軒目の居酒屋のかたすみで日本酒をちびちびと嘗めているとき、彼は思い切ったようにこう言った。

「やっぱり、お前にだけは話しておこう」

 この男とは中学校からの腐れ縁で、健康と体力が自慢の奴だったが、大学のときに旅行で訪れた南米でゴルフボールが左目を直撃して、生まれて初めて入院することになった。

「正確に言うと俺は生まれたときも入院してたけどな」

 そんなことはどうでもいい。

 僕も含めて、当時から彼と親しく付き合いのあった連中はみんな当時のことは鮮烈に記憶している。なにしろ、心身ともに頑健で叩いても壊れそうもなかった男が、休み明けに突如顔じゅう包帯だらけで大学にやってきたのだから。

 さいわい瞳の部分は傷ついていないので、包帯がはずれるころには視力が戻るという話だった。ところが、その後見た目はほとんど元通りになったものの、結局彼の左目は光を失ってしまったのだった。

「目のことで『見た目』っていうのもおかしな話だよな」

 もはや何杯目かもわからない杯を干すと、彼は笑いながらそう言った。

「その話もそのオチもかれこれ10回は聞いた」
「まあそう言うなって。本題はここからだ。『白い影』の話は覚えてるか?」

 そう言われて思い出した。

 事故があってからしばらく、彼は、見えないはずの左目に白い影がちらちらするとしきりに訴えていたのだった。最初は後遺症のようなものだろうと思っていたが、彼がその白い影については何も言わなくなったので、そのうちにみんな気にしなくなったのだ。

「あれは治ったんじゃなかったのか?」
「逆だよ。しばらく経つうちに、はっきりと見えだしたんだ」

 最初ぼんやりした白い影に見えたものは、白い服を着たすらりとした女性の姿だった。それは彼の見えない方の目の中で日に日に鮮明になってゆき、次第に細かい表情までも見てとれるようになった。

 彼女はいつも彼の真っ暗な視界のどこかにいた。はじめのうちはただ曖昧にふらふらしているだけだったが、そのうちに彼の存在に気づいたように、ときどきこちらを見ては近づいてきたり、なにかもの言いたげに近づいてきて顔を覗きこむようなしぐさをするようになっていった。

「…その話、似合わないぞ」
「だから誰にも言わなかったんだよ」
「確かに」
「それにこんな妙なこと口走ったら、眼科から別の病院に移されるのは目に見えてる」
「目は見えないのになあ」
「まさにそのとおりだ」

 その後、彼は大学を卒業すると実家には戻らずにこちらでそのまま就職した。慣れない環境で自立した生活を始める誰もが経験するように、彼もそれなりの失敗や孤独をあじわい、ときにはひどく落ち込むこともあったらしい。

 白い女は、まるでそんな彼を見透かすように、孤独や苦痛に心乱れるときには物思わしげにこちらを見つめ、彼の心が喜びにあふれるときには嬉しそうに見守った。

 苛立ちからその姿がときにわずらわしく思われ、心の中で「うるさい!」と叫ぶと、白い女はひどく傷ついたように離れた場所で背中を向けて座り込むのだが、しばらくするとふたたび間近に来て、ちらちらと彼の見えない目のほうをうかがうのだった。

 それにしても、確かに面白くはあったが、僕には彼があまりにもその話に夢中になりすぎているように思えた。

「それは、今でも見えるのか?」
「ああ、右目で『外』を見てるとあんまりだけど、目を閉じるとはっきり見える」
「そうか」
「ただ、どうしても片方だけで見てるって感じだけどな」

 その後、いつものようにとりとめもない馬鹿話をしながら二軒ほど回って、すっかりへべれけに酔って家に帰ったのは翌朝だった。

 結局、彼がなんのために僕にそんな話をしたのかはよくわからなかった。

§           §           §

 そんなことがあってから一週間ほど経って、僕は彼の家族から、彼が大きな怪我をして入院したという連絡をもらった。

 とりあえず命に別状はなさそうだったが、連絡をくれた彼のお母さんはひどく取り乱した様子で、電話口では詳しい話は聞けなかったので、とりあえず見舞いに行くことにした。

 教えてもらった病院に着いた僕は病室を案内してくれた看護婦に何があったのか聞いてみた。看護婦が言うには、「部屋で何かをしていた拍子に」「右目を酷く損傷」してしまったらしいということだった。僕はそれ以上詳しい話は聞く気になれずに、簡単に礼を言うと足早に病室に向かった。

 病室のベッドには、顔の上半分を包帯で覆われた男が座っていた。
 彼はこころもち顔を上げたままぼんやりとしているようだった。

「おい」

 僕は、彼の名前を呼んだ。

「おいってば!」
「ん…? ああ、来たか。待ってたぞ」

 僕にはもう、どうして彼があのときあの話をしたのかがわかっていた。
 だから、言うことはひとつだった。

「…見えるのか?」


「ああ。とてもよく見える」


 彼は、こちらからは見えない目と、口元で、おそらくは最上の笑顔を浮かべた。
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by tatsuki-s | 2004-08-19 02:13 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

ひとちがい

 子供の頃から、よく、知らない人に誰かと間違えて声をかけられます。

 しかも間違えた人はすぐにはそのことに気づかず、しばらくわたしに話しかけて
から、はっとして口をつぐむのです。そんなとき、わたしは、なんだかとても申し訳
ないような気持ちになります。

 というのも、わたしはそんなふうに間違えられることに慣れているから、べつに
どうということもないのです。でも、間違えてしまった人は、それはもう、ひどく
気まずそうにあやまるのです。

(気にしなくていいのに) 

 わたしはいつもそう思うのですが、うまくその人に伝えることができません。

 いつの頃からかわたしは、そういうことがあるたびに、ただにっこりと微笑んで、
ひとこと、

「いいえ」

とだけ言うことにしていました。


 今日も、通りを歩いていたわたしは、いつものように知らない人に声をかけられました。

 その人はとてもかわった身なりをしていました。

 この暑いのに、頭からすっぽりと黒い麻の袋のようなものをかぶっていて、肩には
大きな鉄の鎌のようなものを担いでいるうえに、なんだか顔色もよくありません。

 わたしはすこしびっくりしましたが、やっぱりいつものようにその人が気づくまで
しばらくわたしの耳もとで話しつづけるのを聞いていました。

「さ、そろそろやな。まあ、あんたも運が悪いと思ってあきらめたってや。
 あー心配せんでええよ、ほんの一瞬で済むし。ご、よん、さん、に、いち」

 その瞬間、すぐ近くでキキーッという車のブレーキ音と、ドサッという鈍い音が
聞こえました。

 ふと見ると、すぐそばに見知らぬ人が倒れていました。

「あ…。え、えらいすんません。人違いやったわ」

「…いいえ」

 わたしはなんだかとても申し訳ないような気持ちになったけど、どうしても
にっこり笑うことはできなかった。
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by tatsuki-s | 2004-08-17 22:19 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)


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