飲酒日記

スキー&スノーボード2004-2005

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電波日記。

今日は会社を休んでみた。
会社に行きたくないとかそんなヘタレな理由じゃない。
俺は、自分を鍛えるために休むんだ。いやマジで。

午前9時5分、俺の携帯に電話がかかってきた。
理由は簡単だ。
俺の部屋の固定電話はインターネッツ専用回線だから
通話とかダセェ目的には使わねえからだ。

話がそれたが、めったに鳴らねえ俺の携帯がブルブルしだすと
俺の心臓はもうバクバクだ。休みの連絡くらい入れたほうが良かったか、
などと気弱なことを考えそうになる自分をぐっと抑える。

25回のコールのあと、ふっと携帯が止む。
勝った。何よりも、自分自身に対してだ。

ひと山超えた俺は、安堵感から少し眠くなったが、
ここで寝ちまうとヒキコモリと誤解されかねない。
そこで俺は、ドリキャスの電源を入れると、
いまだに孤高の鬼育てを続けているPSOをはじめる。
もちろん、パーティ組むとかそんなヘタレなことはしねえ。
onでもoffでも、俺は自分を鍛えることにしか興味がねえんだ。
決して一緒にやる友達がいないからじゃねえ。

軽く2時間ほど自分を高めると、ぼちぼち腹が減ってきた。
午前11時。
ブランチにうってつけのナイス時間だ。
おっとその前に軽くメールでもチェックしとくか。
ピポパピポペペ
イカしたダイアルアプ音に続いてコネクション。
12通受信してる。11通はワケの分からん外人からのエロメールだ。
すかさず「俺は英語だ読めねえって何回言ったわからこのヴォケ」
と返信する。あと1通はめずらしく日本人からだ。

差出人:会社
件名:至急連絡下さい

クソッ、なんてこった。
メールの中身を読もうとするが、指が震えてうまくクリックできねえ。
ずれるたびに、上下に並んだ外人エロメールが開いてウザいことこの上ない。
クソッ! こんなところで俺は負けるわけにはいかねえ。いかねえんだ。

やっと開いたメールの文面はこうだ。

○○さん(←俺の名前だ)
大丈夫ですか、何か事故でもあったのですか?
もし可能なら至急ご連絡ください。
それから、10時頃××さん(←クライアントの名前だ)から、
本日検収予定の△△の件でお問い合わせがありました。


そうだ…△△の件てスッカリ忘れてたじゃねえか俺どうすんだ俺。

足が震えてションベンが漏れそうになってくる。試験終了寸前に解答用紙
真っ白の時みたいに最悪の気分だ。書こうとするとエンピツの芯が
ポキポキ折れるあの感じだ。

この逆境で俺は考えた。信じられないほど頭はフル回転だ。
今から泡食って連絡入れんのは敗北だろブラザー?

よし。気がつかなかったことにしておこう。
そういう状況ならメールが読めなくてもしょうがないだろ。
携帯も電波が届かなかった。
届かなかったんだ。
我ながらスゲエアイデアだ。
でもなんで読めなかったってんだ俺?

…事故だ。
メールに事故と書いてあるがそれがいい。それでいいッ。
どんな事故がいいか。出社したときに怪我はしてないが、
とにかく大変だったと思えるような奴がいい。
電車にでも轢かれるか。
いやダメだ。死ぬだろそれは普通に。
車ぶつけるとかか。いや俺そもそも車もってねえし。
だいたいなんで今日車乗ってたって言うんだ。
理由がねえよ。レンタカー借りてましたとか言ってる場合じゃねえ。

そんなこと考えてるうちに12時だ。
ウダウダしててもラチがあかねえ。まずはメシだ。
昔の奴は言った。腹が減ってはなんとかかんとか。
細かいところは忘れたが、いい事言うよな昔の奴。誰だかしらねえけど。
あれだ、矢が3本でどうとか言った奴じゃなかったか。

俺もそいつにならってまずはメシを食うことにした。
いいか、こいつは断じて逃げじゃねえ。戦う前の心構えひとつってやつだ。
おもむろに冷蔵庫をあさる俺。

バナナと、牛乳と、ブルーチーズがある。
…ブルーチーズなんか買った覚えねえな。
まあいい。俺はこいつもわりと嫌いじゃないからな。
あとは近所のパン屋でもらったパンの耳があったハズだ。
こいつらを混ぜ合わせてブディングと洒落込む俺。
いいか、そんじょそこらの奴の言ってる庶民ブリンじゃねえ。
本場英国流のpuddingって奴だ。

砂糖をたっぷりとブチ込んで蒸す。いいか、ここでタップリ入れるのがコツだ。
ここでケチるようじゃ二流。待つこと15分。取り出してみる。

…なんで固まってねえんだ。
クソッ! 食い物まで俺を馬鹿にしやがって。何かが足りねえのか?
まあいい。
俺は出来上がったそのブディングを必死こいて吹き冷ましながら食った。
はっきりいってマズい。激マズだ。
マズいというかむしろ食えたもんじゃなかったが残すのは敗北だから
全部食ってやった。ケッ。ざまあみろ。
庶民ブリンの分際で俺に楯突きやがって。

腹が満たされると俺は優雅なキモチになった。
金持ち喧嘩せず。衣食足りてケイセツを知る。
さまざまな教養ワードが俺の脳内をかけめぐった。
ところでケイセツて何だ。

気がつくと午後1時20分。おだやかなまどろみが俺を襲う。
ここはひとつシエスタと洒落込むか。
なんか忘れてる気もするが、そんな小さなことを気にするほど
俺は小さい人間じゃない。
まわりの風景がぐにゃぐにゃする。いい感じだ。

…。

午後8時28分。
たっぷり眠って目が覚めた俺は、満ち足りた気分で今日一日を振り返る。
今日も一日自分を鍛え続けた。
問題なしだ。

明日もガンガン生きるぞ。
そう思いつつ俺はドリキャスの電源を入れ、なおも自分自身を高め続けるのだった。
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by tatsuki-s | 2004-06-30 01:07 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

落とし物の話

6/19(土)

 ゆうべは、おかしな夢をみた。

 どういうわけか、僕はバスターミナルで長距離バスを待っていた。
 ターミナルは空港のロビーみたいにやたらに広く、異常なくらい人でごったがえしていて、だれもかれもが大きな箱や長い角材みたいなものを抱えてあわただしく行ったり来たりしている。

 座れるような場所は全然みあたらなかったし、誰も座っている人もいなかったので、僕は壁ぎわの床にじかに腰をおろしていた。ふと、ジーンズの後ろのポケットにいつも入れている財布がないことに気づいた。それで、あわててサービスカウンターに行った。

 カウンターにいる女性の後ろの棚には、誰かが拾って届けたのか、まぎれもない自分の財布が置いてあった。

 僕は、その財布を落としたのは自分ですと名乗りでたのに、その女性は、返すには本人確認が必要ですぐには返せない、いろいろな書類を出してもらって、渡せるまでに最低でも一週間はかかる、と言った。僕はひどくいらいらして、中に入っているものも見ないで全部言えるし、免許証も入っているから確かめてもらえばいいと言ったのに、女性は「それはできません」の一点張りでまったく返してくれそうもない。

 どうしようもないので、少しカウンターから離れたところで遠巻きに様子を見ていると、その受付の女性は、僕の財布もなにもそこに置きっぱなしにしたままその場を離れてしまった。まったく馬鹿げたことだが、さっきはあんなに神経質に断ったくせに、カウンターは無人になった。

 僕はすばやくカウンターに駆け寄り、自分の財布を取り戻してポケットにねじ込むと、そそくさとその場を離れた。自分のものを取り返しただけなのになんだかものすごく悪いことをしている気分だった。なんともいえず後ろめたい気がして、人目につかないように自分の荷物が置いてあるところに戻って、壁ぎわにこっそり腰をおろした…。

 というところで目が覚めた。

 あれは一体どういう夢なんだろう? 夢の中でめんどくさい手続きに悩まされたり、夢にしちゃ妙にリアルじゃないか(笑)。しかも自分のものを取り返しただけのことであんなにビクビクしている自分が小心者すぎて、ちょっと笑ってしまった。


6/20(日)

 どういうわけか、昨日の夢の続きを見てしまった。
 珍しいこともあるものだ。

 気がつくと僕は昨日と同じ壁ぎわに座っていた。すぐに、これは昨日の夢の続きなんだと思った。ターミナルはあいかわらず人だらけでみんな慌ただしくしていたけど、ときどき僕の姿を不審そうにちらちら見ていく人がいる。

 そのうちに、遠くの方から微妙なざわめきが、人ごみの中をこちらに向かって伝わってきた。何ごとかと思っていると、それまで慌ただしく歩いていた人たちが、全員立ち止まって僕の姿を見てヒソヒソ話をしている。その人ごみをかき分けて、誰かがこちらにむかってやって来た。

 警官らしき人と、受付にいた女性だった。
 女性は、僕の顔を見るなり「こいつです」と言った。

 僕はものすごく恐ろしくなって、かばんを引っ掴むとダッシュで逃げた。それと同時に、やばい、目をさまさなきゃ、やばい、と思って頭を強く振った。

 その瞬間、ビクッとなって目が覚めた。
 気がつくと全身にじっとり汗をかいていた。

 それにしても、悪夢っていうのは寝覚めの瞬間は最悪なことが多いけど、そのあとなんとなくホッとして、なんであんなに怖かったのかと思うとそれがおかしかったりもするので、そんなに悪い気分ではなかったりするのはいいところだと思う。


6/21(月)

 昨日は例の夢の続きは見なかった。
 それにしても週の初めは疲れる。さっさと寝てしまおう。


6/22(火)

 またあの夢をみた。

 建物の外に出ると外は夜で、道路沿いに明かりがあるだけで周囲はなんにも見えなくて真っ暗だった。後ろを振り返ると、誰も追ってきていない。

 しばらく立ち止まって見ていると、おそろしく緩慢な動作で、のろのろと大勢がこちらに向かってくるのがわかった。しかも、よくわからないくらい静かで、さわさわというささやき声のようなものしか聞こえてこない。僕は、道路沿いに走って逃げ出した。

 走っている途中でいいかげん目を覚まそうと思うのだが、どういうわけかちっとも目が覚めない。それに、夢の中なのに息切れがしてひどく疲れた気がしてきた。もう限界、と思うところまで走って、背後に人の気配もしないので、道ばたに横になった途端、夢の中で眠りに落ちて、そこで目が覚めた。

 まさかと思ったけど、起きてみると、別に体が疲れている気もしなくていつも通りだった。よくわからないが、そんなことで安心してしまう。

 こうも立て続けに見ると、さすがに少し怖いかも。

 明日は、病院に行ってこようと思う。


6/23(水)

 今度は、眠ったと思ったらいきなりあの夢だった。眠りに落ちたと思ったくらいの瞬間に、道路沿いの道ばたで目が覚めた。怖くなって耳を澄ましたら、あのさわさわという音が夜の風に乗って聞こえてきた。いつのまにかすごい近い。

 寝てる間に距離を詰められたと思った。もう、ものすごい走って、どうしようもなくなって、倒れて目が覚めた。

 それで今日は病院に行ってきた。夢は眠りが浅いと特に見るものらしくて、僕のは不眠症の一種だろうと言われた。とりあえず睡眠薬を出してもらったので、今日はこれを飲んで寝ようと思う。

 どうか、あの夢を見ませんように。


6/24(木)

 今日は会社を休んでいる。僕はもうだめかもしれない。

 薬を飲んで寝たのに、やっぱりあの夢をみた。

 今日は迫ってくる気配は感じなかったけど、怖くて、ひたすら走った。なんだか昨日までよりも疲れてる気がした。それに夢なのに喉が渇いて仕方ない。めまいもして体じゅうのふしぶしが痛い。あんまり走れなくて、倒れて眠った。やっぱりそこで目が覚める。

 起きると疲れてるわけじゃないのが救いだ。もう寝るのが怖い。


6/25(金)

 気がついた事がある。どうやら、僕が起きている間だけ、むこうでは眠っていることになっているらしい。寝るのが遅ければ遅いほどあの音が近くで聞こえる。


6/26(土)

 どうしよう。もう走れない。次は絶対につかまる。次に眠ったらもうおしまいだ。

 誰か助けて。もう走れない。


6/27(日)

 眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い助けてたすけてたすけて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすkkkkkkkkkkkkk


§         §         §


「ずいぶんとひどい錯乱状態にあったらしいな」
「スプーンで自分の喉を無理矢理かき切ったような形跡がありますね」
「やっぱり他殺ってことはなさそうだな」
「ええ。そうなんですけど…」
「どうした?」
「強盗とかそういった形跡はないんですが…この部屋、カードとか、財布の類が全然見当たらないんですよね」
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by tatsuki-s | 2004-06-27 09:07 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

貧相な犬の話

犬を拾った。
俺も外暮らしだから、拾ったとかあんまり関係ないんだが。
パン屋の裏で飯を探してたらついてきたのをそのまま放っといてるだけだ。

ところで、こいつはこの世でもめずらしいくらい貧相な赤犬だ。

起きているときはしょっちゅう鼻を垂らしている。
左の前足は先の部分がとれて短くなっている。
吠えるかわりに嫌な音の咳をする。
寝ているとひゅうひゅう音がしてやかましい。

なんつうか、もう犬と呼んでいいギリギリのセンでアウトって感じだ。
はっきり言って飼ってるつもりは全然ないが、分け前は与えている。
まあ、俺のこともわかってるのかわからねえのか、首かしげたまま
ゴフューゴフューと得体の知れない音を立てるだけだが、
嫌がった様子でもないから、俺はそれでよしと思っている。

ところが、こいつがいくら喰わしても全然太らない。
逃げるときは足手まといだし、非常食としてもダメだ。
痩せすぎてて冬に抱きかかえていても少しもあったかくならない。

「早く太れよ。死んだら喰ってやるから。
 そのかわり、俺が死んだらお前喰っていいぞ」

俺はムキになって手に入れた食い物をこいつにやってみた。
どうなってんだ。喰ったもんがどっかに消えちまってるのかよ。

そんなことをやっているうちに、俺は体を壊して倒れた。
よく考えたら、こいつにばっか喰わして肝心の俺がロクに喰ってなかった。

なんだ俺。バカ丸出しじゃねえか。

夜になると熱が出てきた。
動けないから、いよいよやばい。
俺、死ぬのかな。

そんなことをボンヤリ考えて路地裏で横になってたら、顔に
生臭いものがあたった。薄く目をあけると、犬の奴が俺の顔を
なめ回している。

「馬鹿。まだだよ」

俺が言うと、犬はまた、俺の顔をなめた。

「まだ喰うなよ」

犬はベロベロと俺の顔をなめ続けた。
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by tatsuki-s | 2004-06-18 02:37 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

誘惑の話

「ほら、俺は輪っか作れるよ」

 ぷか。

「俺も。リップルレーザー!」

 ぷかぷか。

「じゃ、俺モアイ」

 ぷかぷかぷか。

「あははー、処理落ちしてるよ」

 ぷかぷかぷかぷかぷわー。

「…禁煙中なんだからよそでやってくれ!」
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by tatsuki-s | 2004-06-11 00:48 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

学校の話

「みんなー、給食は残さず食べましょうね☆」
「せんせい、ぼく、ぎゅうにゅうのめないの」
「あら、どうして?」
「『あなふぃらきしー』だっておかあさんにいわれたもん」
「好き嫌いはダメよ。ほら、がんばって!

 ——がんばれば、どんなことでもできると思っていた、あの日。

「みんなー、手をつないでいっせいにゴールしましょう☆」
「あっ!」
 バターン。
「あっ!」
「あっ!」
 バタバタバタ。
「あーあーあー」

 ——びりになるより怖いことを知った、あの日。

「ほら、みかんひとくちで食べれるぜー。あぐ」
「てぃらりーん、鼻から牛乳〜」
「ぐはっ…」
「ああっ!」
 ピーポーピーポー

 ——笑顔よりも大切な何かを学んだ、あの日。


 目を閉じれば思い出す。
 なつかしく、かけがえのない日々…。




「…そんな映画を撮るのが夢なんだ」
「キミ、小学校嫌いだったでしょ」
「えぇー! どうして!?」
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by tatsuki-s | 2004-06-10 00:59 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

ヒトガタの話

「子供の頃、夢枕に立ったひいばあちゃんがこれをくれたんだ」

 そう言って、彼は白い紙でできた小さな人形のようなものを見せてくれた。

「これ、何?」
「ひいばあちゃんは『お前は、人生で三回、危ない目にあう。これは、そんなとき身代わりになってお前を助けてくれるよ』と言った。呼びかけようとしてふっと目が覚めると、このヒトガタが三枚、枕元に置いてあった」
「へえ、不思議な話」
「それだけじゃない。僕はこれまでに、もうニ回はこいつに助けられたような気がするんだ」

 彼はコーヒーを一口飲むと、話を続けた。

「一回は小学校の遠足のとき、前日、楽しみで眠れなかった僕は、翌朝、熱を出してしまったんだ」
「あはは。かわいいじゃない」
「うるさいなあ。それで、僕は泣く泣く遠足を休んだ。ところが、遠足の道中、僕のクラスのバスに居眠り運転のトラックが突っ込んだ。ちょうど僕が座るはずの席のあたりだった。たぶん、行ったら死んでたと思う」
「そんなことがあったんだ。でも、どうしてその変な人形が助けたと思ったの?」
「いつも机の引き出しにしまってた三枚のヒトガタが、いつのまにかニ枚に減ってたんだ」
「なんか…怖いね」
「僕も、気がついたときはゾッとした。ずっと大切にしまって、ときどき確認してたのに」
「事故のとき、ほかのみんなは無事だったの?」
「大きな事故だったけど、ほとんど全員が、奇跡的なくらい無傷だった。でも、ひとりだけ、同じ班の女の子が、シートとサイドパネルの間に挟まって亡くなった」

 話しながら、つらそうに小さく頭を振る。

「昔のことなんだけど、今思えば、子供心にちょっと気になってた子だったし、あのとき僕が行っていたらどうなってただろう、なんてことをふと思ったりする」
「そんな。考えても仕方ないよ」
「うん…ありがとう」

 彼はそう答えて、カップの底に残ったコーヒーをぐっと飲みほすと、少し顔をしかめた。

「二回目は高校生のときだった」
「うん」
「友達数人と遊ぶ約束をしてたんだけど、僕は当日ひどい腹痛で行けなかった。もちろん、そういうことだってないわけじゃないから、そのときはヒトガタのことなんて、考えもしなかった」
「そう…だよね」
「でも、その日行った連中はジェットコースターの故障事故に遭った。当時つきあっていた子は、安全バーが外れて転落死してしまった。連絡があって、まさかと思いながらも引き出しを開けてみたら、ヒトガタが一枚減ってた」
「今持ってるのが、最後の一枚なの?」
「うん。何度も捨てようか迷ったけど捨てられなくて、とはいえ目の届かないところに置いたまま、また知らないうちに無くなってるのも嫌だし、こうして肌身離さず持ち歩いているんだ」
「そっか…」

 そんな話をした後、私たちは食事を済ませ、日曜日の待ち合わせの約束をして別れた。

§         §         §

「遅いなあ」

 私はちょっといらだちながら待っていた。いつもは5分前に二人とも来るのが暗黙の約束になっているのに、今日に限って、約束の時間を10分過ぎても姿が見えない。

 と、そのとき携帯が鳴った。

「もしもし?」
『ああ、ごめん、ちょっと来る途中で事故っちゃって』
「だ、大丈夫なの!?」
『軽くバンパーこすっただけだから、たいした事故じゃないんだけど、警察とか…。今日行けそうもないんだ』
「まったく…しょうがないなあ」
『ほんとゴメン、あとでまた連絡するから』
「うん」

 ピ、と通話を切る。この前、あんな話を聞いたせいか、事故と聞いて一瞬私はとても怖いことを考えてしまった。

(でも、ほんとに、無事でよかった。)

 せっかくの日曜が無駄になったのには少し腹が立つけど、ほっとした分で帳消しにしておこう。

 私は、緊張がほぐれたせいか、なんとなく晴れやかな気分になって、携帯をバッグに戻した。すると、カサリ、と耳慣れない音がして何かが指に触れた。

 そこには、小さな紙のヒトガタがあった。
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by tatsuki-s | 2004-06-08 17:18 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

魔神の話

6月6日(日) 雨

 長い研究の末に、ようやく魔神の召喚に成功。

「願いをひとつだけかなえてやろう」

 魔神は言った。お約束だ。

「やっぱり魂をとられるの?」
「お前の鏡や写真に映る姿か、お前の影か、どちらかをもらう」

 わたしは自分で見とれるほどの容姿というわけではないけど、鏡にも写真にも映らないとなると、いろいろと困りそうな気がした。

「影のほうでお願いします」
「ふむ。ではお前を人前で目立たなくしてやる」
「ひどい、そのまんまだ」
「俺もお前の影をもらったってあんまり嬉しくないからな」

 魔神にも嬉しいとか嬉しくないとかあるのか。それもそうね。

「じゃ、姿のほうにしてください」
「わかった。お前はみんなに綺麗だと言われるが自分の顔は一生みられない。それで…あ! 何をする!」

 わたしはチョークで描いた魔方陣を足でこすって消した。
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by tatsuki-s | 2004-06-07 16:50 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)

役立たずの男の話

 私の部隊にはビッグスという男がいた。

 傭兵として入ってきた当初、私はその人並みはずれて大きな体躯に戦力としての期待をかけたが、ほどなくしてまったくの役立たずであることが明らかになった。

 力だけはあったが、武器の使い方もろくに知らず、おそらく生まれてこのかた鍬や鋤以外のものを持ったことはなさそうだった。しかも、戦闘になるとでかい図体を持て余してあっちへウロウロこっちへウロウロ、まるで大きな的が歩いているようで、もはや戦闘に参加させること自体が危険きわまりなかった。

 そのていたらくから、すぐにこの大男は傭兵連中の間で「ノロマのビッグス」とあだ名され、そのうちに誰もが単に「ノロマ」としか呼ばなくなったので、いつのまにかそちらが名前のようになってしまった。

 仕方がないので前線に出す代わりに伝令などをさせてみると、肝心なところで必ず期待を裏切って、私の要求とは逆の結果を持ち帰ってくる。

 「急がなくていいから城に正確に伝令をしてくれ」と命じれば、一日か二日で「どうです、早かったですかね」などと得意げに戻ってきて、そのくせ肝心の内容はまるで伝えていない。「近隣の集落から食糧を徴発してきてくれ。武器はいいからとにかく食糧だ」と念を押して言いつけても、集落の連中に壊れた農具やなべ釜の類ばかりを運ばせてきて「これならいざというときは武器になりませんかね」と、まるでわざとのようにことごとく裏目に出るので、こちらは戦闘以上に役に立たなかった。

§         §         §

 ふとした折に私は、なんでこんな農夫まるだしの男が傭兵になったのかと疑問に思って、気紛れにビッグスに問うてみた。すると、領主の覚えがめでたくないので農夫では子供を養えないからなどという、めずらしくもない答えが返ってきた。

 とりあえず腕力だけは人一倍あったので、鍛えればどうにかなるかと思って訓練も試みたが、この男はつくづく戦いに不向きな性格らしく、訓練用の木刀であっても相手に殴り掛かることすらできない。いいから打ってみろと強く命じると、半分泣きそうな顔をしながら目をつぶって、ぶるぶると震えながら形ばかりのろのろ木刀を振り下ろすのが精一杯だった。

 ところが、図体に似合わず細かい事や面倒な作業なら厭わずにやるので、私は次第にビッグスに部隊の荷物運びや馬の世話、そして意外にもかなりの器用さでこなす食事の準備などをまかせるようになった。

 私が礼を言ったりほめてやったりすると、無骨な顔を赤らめて「とんでもねえです」とひどくはにかんだように微笑むのだった。

 しかし、周囲の傭兵連中は、負傷してもいないのに前線にも立たず下男のような仕事ばかりしているビッグスを、「役立たずのノロマ様はうらやましいこった。俺もああなりたいもんだ」と、わざと聞こえるような大声で罵った。

 そんなとき、当のビッグスはきまって曖昧な笑顔をうかべて「そうだなあ、みんなは俺なんかよりずっと大変だなあ」と申し訳なさそうに言いながら、自分で摘んできた薬草を煎じた茶を淹れてまわるのだった。

§         §         §

 そんなある日、私の部隊は後方との往来を絶たれて取り囲まれてしまった。

 完全に退路を断たれる寸前に一点突破をはかり、辛うじて包囲から逃れることはできたものの、その結果兵の大半が負傷し、このまま時間が経てば敵襲を待つまでもなく全滅、というほどの深刻な被害を被った。

 部隊の危機もさることながら、ここで戦線が崩壊すれば我が軍は致命的な劣勢に立たされる恐れがあった。

 私は、なんとしても領主のいる本隊と連絡を取りたいと考えた。だが、そんな長い距離を伝令に行けるような体力が残っていたのは、部隊の中でただひとり前線に出ていないビッグスだけだった。

 副官は私に「あいつが行けば、助かるどころかまちがいなく全滅です」と言った。しかし、この状況では他に選択肢などなかった。

 呼び出されたビッグスは、いつものようにそわそわときまり悪そうに私の前に立ち、どんな叱責を受けるのかとびくついた様子で「あのう、なんでございましょうか」と言った。私はふと、いくら農夫とはいえ、よくもこんな具合で妻を得て子をもうけることができたものだと思い、思わず問うてみたくなった。

 ビッグスはまるで今まで話していなかったことが自分の罪ででもあるかのように極度に恐縮しながら、未婚のまま領主の子を身籠って貰い手のなかった女を娶ったのだが、女がこの子供を残して姿を消してしまったので、とにかく今は自分の子として育てているのだ、と言った。

「気の毒なきれいな女でしたんで、一生面倒みてやろうと思ったんですがね」

 その結果がこれとは、まさしくこの男らしかった。こんなところまで裏目に出てしまう奴が、大事な伝令を任されて裏目に出ないはずがなかった。

 私はしばし考えてから、心を決めるとビッグスに命じた。

「いいかビッグス。お前は命を落としてもかまわん。なんとしても本隊に辿り着け」

§         §         §

 三日後、援軍が到着した。

 私の部隊は再び優位を取り戻し、戦況は著しく改善した。

 援軍の部隊長に「伝令にやった者はどうした」と問うたところ、本隊に到着したときには既に全身傷だらけで、部隊の危機を伝えるとほどなくして息を引き取った、とのことだった。

 ほんとうに、あの男は肝心なときほど私の期待を裏切ったのだった。
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by tatsuki-s | 2004-06-04 00:42 | Anecdote/Pun(小噺・ネタ)


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