「記憶の操作って言っても、実際には人間の記憶なんて、そう簡単にホイホイ消せるもんじゃないんだ」
——それじゃ…なんできれいさっぱり忘れちゃってるの。 「つまり…記憶を『消す』っていう言葉自体、正確じゃないんだ。どっちかっていうと『思い出さないようにする』っていうのが正しいかな」 ——…それって、どう違うわけ? まるで詐欺師でも見るような目つきで言われる。 「うーん…たとえば、テストのときは、問題が出てきたら記憶をたぐって覚えたことを思い出すでしょ?」 ——あたりまえじゃない。 「でも、思い出そうと思えるのは、そのことを『勉強した』っていう記憶があるからなんだよ。『昨日試験範囲は勉強した。この部分はやった覚えがある』ってね」 ——まあ、それはそうかも。 「ところが、そもそも『勉強した』っていう意識そのものを消されたらどうなると思う?」 ——思い出そうとすることもできないってこと? 「その通り。つまり、そういう意識のカギになる部分さえピンポイントで壊してしまえば、覚えていることを全部忘れさせるよりもずっと簡単に記憶の操作ができてしまうってことなんだ」 ——それで? 「…え?」 ——その「ピンポイント」って、どういうときに起こるわけ? 「たとえば、飲み過ぎたとき…とか。それより、その手に持った金属バットはなんですか?」 ——これは気にしなくていいから。他には? 「あ…頭に強い衝撃を受けたときなんかも、多分」 ——じゃ、逆に思い出すこともあるよね? 「それはもしかして…もう一回飲み過ぎろってことですか?」 首ははっきりと左右に振られた。
by tatsuki-s
| 2004-04-23 10:08
| Anecdote/Pun(小噺・ネタ)
|